AAMTジャーナル「機械翻訳」No. 84 AAMT 2025, Tokyo ~LLM時代における翻訳と人間の共進化~
1. はじめに
2025年12月2日に開催されたAAMT 2025, Tokyoのイベント報告をします。AAMT 2025, Tokyoはオンラインと会場のハイブリッド形式で開催され、パネルディスカッション(図1)、公募ポスター7件の発表、招待講演3件のほか、ランチョンセミナーや企業展示も行われました。講演資料はhttps://aamt.info/aamttokyo2025/handout-20251202/ からアクセスできますので、併せてご覧ください。

図1:パネルディスカッションの様子
2. パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、「機械翻訳とどうつきあう?―PEガイドラインと実務の声から見えるこれから―」をテーマとして、AAMTのポストエディット(PE)ガイドライン策定に携わった方々を招いて、ディスカッションを行いました。モデレーターはAAMT理事 室田 洋子氏で、パネリストは以下の3名の方々です。
◎荒木 慎太郎 氏(株式会社カルテモ 取締役 事業推進部 部長 翻訳品質管理責任者)
◎上田 有佳子 氏(ネットアップ合同会社 APACグローバル化戦略統括)
◎大村 雅之 氏(MSD株式会社 メディカルアフェアーズ シニアスペシャリスト)
◎ディスカッション&質疑
室田氏:
AAMTでは、機械翻訳(MT)の品質管理に役立つPEガイドラインを策定した。このディスカッションでは策定に関わった3名の方々をお招きした。まず、それぞれの自己紹介とMTとの関わりをお話しください。
荒木氏:
PEに取り組む会社で品質管理責任者を務めている。自分自身がPEネイティブの翻訳者であり、プロジェクトの様々な工程、PEの教育にも携わっている。
上田氏:
30年くらい前からMTに関わっており、MT結果の修正が必須だった時期から、MTのまま公開することも多くなった現在まで、海外ベンダーのローカリゼーションに関する業務に携わっている。
大村氏:
製薬企業において、薬の医学的情報を取り扱う部門で、ローカリゼーションを含めた、社内の効率化・デジタル化に携わっている。
室田氏:
3名それぞれが、PEガイドライン策定に携わったモチベーションは何ですか?
大村氏:
利用者の立場からPEガイドラインが分かりやすくなるように、と思い参加した。参加しているうちに知識がつき、本当に利用者にとって分かやすいかどうかは不明だが、ご意見をいただきながら改善していければ良いと考えている。
荒木氏:
自分自身がPEの受託者やPEの講師という立場で活動する中で、PEやMTに対するリテラシーに差があると感じた。PEガイドラインをまとめることで、業界や発注者がPEやMTを正しく理解できると良い、と思い参加した。
上田氏:
PEガイドライン策定の話をいただいた時は、各社独自に作るものではないか、とも感じた。しかし、これから始める企業もあることや、LLMの導入などを考慮すると、新たな視点でのPEガイドラインが今必要だと思い、業界に貢献するモチベーションで参加した。
室田氏:
PEガイドラインに期待することは何ですか?
荒木氏:
PEに対するリテラシーの底上げ、PE案件の顧客とのコミュニケーションに有効なツール、PEの教育の3つの観点で、非常に役立つドキュメントだと考えている。特に教育では、PE実務のスキルだけでなく、全体のプロセスや自らの役割を理解することも重要である。
大村氏:
発注側がPEを理解せずに翻訳会社に丸投げでは、思うような成果物が得られないと考えている。発注側がPEを理解し、スピード向上やセキュリティ面など、業務で必要な点を考慮する必要がある。
荒木氏:
製薬業の文書において、PEが向く・向かない文書はありますか?
大村氏:
社内文書はライトPEで良いと思う。規制当局への提出資料や医学情報は正確性重視なので、ライトPEは向かない。
上田氏:
荒木さんに尋ねたい。PEガイドライン冒頭で、PEガイドラインはスタイルガイドではないと断っているが、スタイルガイドの実態は顧客ごとにどの程度違うのか。
荒木氏:
基本は顧客ごとに大きく異なるが、そもそもスタイルを細かく指定するかどうかも顧客ごとに異なる。
上田氏:
PEはある種の哲学だと思う。これからPEを始めよう、という企業は、スタイルガイドを作る前に、是非PEガイドラインを一読してほしい。日本語の細部表現にこだわった結果、リリースが遅れるのは、本末転倒である。品質に対する考え方自体も変遷しているので、見直しが必要な可能性もある。
大村氏:
製薬企業も、外向けに出す文書に対してはまだ厳しいが、社内向けの文書だと、MTで作成した文書も散見されるようになってきた。
荒木氏:
スピード重視のスタイルガイドを用意しても良いし、使い分けの視点も重要だと思う。そのような点も、PEガイドラインを見ていただければ分かると思う。
上田氏:
発注側とのコミュニケーションは今後も大事だと思うし、そのための関係づくりが重要だと思う。
室田氏:
お使いのMTエンジンや選定理由は?
荒木氏:
海外ベンダーの案件では、MTエンジンを指定されることが多い。国内の案件では、MTエンジン選定を行うことがある。顧客が好む翻訳に近いかどうか、翻訳支援ツールと相性が良いか、といった観点で案件ごとに最適なMTエンジンを選ぶ。
室田氏:
海外ベンダー案件はMTエンジンを選べない、とのことだが、何種類くらいMTエンジンを使っているか?国内顧客の好みはどのようなものか?
荒木氏:
使っているMTエンジンが明かされないことも多く、カスタマイズなどを含めると数は分からない。
好みは、例えば、文章が長めと短めのどちらが良いか、顧客の業態に応じた文体など。特定のMTエンジンを推奨ということはなく、最近はどれも実用レベル。
大村氏:
2016年くらいにGoogle翻訳がすごく良くなり、その頃出てきた医薬専門翻訳エンジンが素晴らしく、導入したことがきっかけ。更に用途ごとに用語や言い回しが異なる点にも対応したMTエンジンが欲しい、となり、2018年から2019年にPharmaTraという特化型MTエンジンを使用している。ほかに、薬事文書で膨大な情報が頻繁に更新されるようになり、翻訳会社のMCLが作成したMTエンジンとPEを組み合わせている。
上田氏:
弊社では10年くらい同じMTエンジンを使い続けてきたが、現在は言語ごとにMTエンジンを使い分けている。切り替える動機となったのは、通常のテキストの翻訳品質ではなく、タグなどの扱い。自動化を考慮すると、テキストでない部分、例えば画像や翻訳禁止部分、の扱いが重要となる。MTエンジンを再検討する場合は、弊社のコンテンツでテストするフェーズを経て、別のMTエンジンに切り替える。時間とともにコンテンツも変わるので、フレキシブルさは強み。
荒木氏:
タグ関連は翻訳会社として悩まされる部分。そういった部分に柔軟に対応できるソリューションも、今後多様化していくのだと思う。
室田氏:
翻訳のプロジェクトを成功させるために翻訳会社とクライアントとの間のコミュニケーションで大切だと思うことは何ですか?
大村氏:
クライアントにとって、MTガイドラインは重要なコミュニケーションツールになり得る。クライアントは翻訳会社がどういうプロセスやツールを使って翻訳しているか、知らないことも多い。クライアントとして知っておくべき内容、過去の翻訳資産の何がどのツールでどう活用できるか、をMTガイドラインに盛り込んだ。MTガイドラインを通じて、コミュニケーションが充実できると良いと思う。
荒木氏:
翻訳会社はクライアントに対して、翻訳支援ツールや、翻訳メモリ、マッチ率など、翻訳作業に関わる用語を丁寧に説明した方が良いと思う。また、クライアント側も、専門的な知識で見て誤訳と判断でき、それが翻訳者視点では誤訳と判断できない場合に、翻訳者を育てるような長期的視点で、付き合うのが良いと思う。丁寧なフィードバックを出せば、良い翻訳会社であれば改善が見られると思う。
上田氏:
専門的な知識によって誤訳と判断できるが、その知識が無いと誤訳と判断できない場合、原文を見直すきっかけだと思う。ポストエディターが頑張って直して、原文が間違っているのに日本語だけきれいになっている、というのは避けるべきで、本来クライアント側が自分ごととして、対応すべき問題だと思う。
四半期ごとに、翻訳会社とクライアントが資料を持ち寄り、問題点やエラーの傾向を見つつ、MTエンジン切り替えや、プロセス改善を検討できると良いと思う。
大村氏:
公開しているWEBサイトに対して読者から誤訳報告をいただくことがあるが、誤訳なのか原文誤りなのか、翻訳会社と一つ一つチェックしている。最近は誤訳がほとんどなく、原文がおかしいケースもある。日々の業務の中でフィードバックできるかは課題も感じる。
上田氏・荒木氏:
差分やリスト形式で、翻訳会社からクライアントに見やすい形で報告できると良い。
上田氏:
今までは翻訳メモリ(TM)が神、のような考えがあったが、最近はクリーンアップする必要がある、ということも感じている。古いTMで訓練したMTエンジンの翻訳が汚くなることがあった。また、TMを活用したプロセスやワークフローも見直す必要があると思う。今まではTMマッチ率N%以下の場合にMTというのが通例だが、スピードを求められる場合に何%だったら確認省略、などを考える状況になってきている。100%以外をすべてMTにする選択肢もある。コミュニケーションの中で決めていく必要がある。
荒木氏:
フルPEとライトPEと言われているが、コストとスピードに応じて、いろいろなPEのやり方が生まれる可能性がある。例えば、訳文側で整合性が取れれば良い、TM適用部分は差分確認のみで可、など。最近の懸念事項として、PEのプロジェクトで、修正率に応じて単価が変わることがあると聞いた。PEは訳文を修正する仕事ではなく、7割くらいは正しい訳文であることを確認し品質を保証することが本質だと思う。
室田氏:
今後の展望についてどう思うか?
荒木氏:
PEによって翻訳市場が縮小するのでは、翻訳者の取り分が減るのでは、という話をよく聞くが、私はPEによって今まで翻訳されなかった部分が翻訳されると考えている。例えば、エンタメ系や動画、専門分野の小規模メディアなどである。PEのスキルを身につけている方にとっては、良い時代になってくると思う。
大村氏:
PEガイドラインがクライアント側にとってより良いものになっていくと良いと思う。製薬業界に限らず、スピードが求められつつ、正確性を担保しなければならないシーンは数多くあると考える。
上田氏:
今後、PEにおいて、原文の問題や機械的な修正は、LLMで対処できるようになってくると思う。ローカリゼーション業界を目指す人が減っており、業界が高齢化してきている中、少ない編集量でPEの処理量が増やせるのは良いことだと思う。日本にいろいろな海外の情報を取り入れ、世の中を良い方向に持っていければ良いと思う。
会場参加者:
荒木さんの話で、品質保証ではPEの7割は結果が正しいことの確認となる話があるが必要な能力は何か。
荒木氏:
PEを実施すると翻訳能力が落ちるという話を聞いたことがあるが、正しいことの確認には翻訳能力が必要。また、多くのワードを処理する中で、スタイルガイドに定義されたスタイルを保てるか、ツールを正しく使えるか、といった能力も重要だと思う。
会場参加者:
必要な能力として、語義、文法、事実の把握、論理の正当性について、翻訳者は100%を目指すべきと考えているがどうか。
荒木氏:
お客様が必ずしも100%を求めるわけではないため、顧客の品質要求への適応力も必要と思われる。
3. 公募ポスター
公募ポスター発表は以下の7件でした。
◎XTMを用いた機械翻訳・PEの実務報告:古河 師武 氏(翻訳テクノロジー株式会社)
◎翻訳実務での機械翻訳の活用と成果を翻訳者の体験から紹介:吉川 潔 氏(翻訳者)
◎LDX hubを活用したハイブリッドPEの事例:伊澤 力 氏(株式会社川村インターナショナル)
◎大規模言語モデルは多様な翻訳仕様に追従できるか?:萱野 陽子 氏(総合研究大学院大学)/菅原 朔 氏(国立情報学研究所)
◎機械翻訳出力に対するLLMを用いた後編集:早川 威士 氏(株式会社アスカコーポレーション)
◎生成AIの時代に翻訳者が主導する新しい翻訳システム:三浦 由起子 氏(医学翻訳者・翻訳エージェント)/津山 逸 氏(医学翻訳者)
◎ポストエディットが翻訳者の仕事満足度に与える影響:阪本 章子 氏(関西大学)
下記のまとめは、資料と発表内容より、報告者が主観的にまとめたものであることにご注意ください。
◎XTMを用いた機械翻訳・PEの実務報告:古河 師武 氏
MTPEで作成した訳文と人手翻訳で作成した訳文について、3種類のブログ記事翻訳を対象に、作業時間・翻訳品質(主観評価)・作業付加(主観評価)を実施した。MTPEは人手翻訳に比べ作業時間を50%~60%削減でき、翻訳品質は人手翻訳とそん色なく、作業付加は軽減できた、という結果だった。
◎翻訳実務での機械翻訳の活用と成果を翻訳者の体験から紹介:吉川 潔 氏
最新のMTは、長文に追従可能であり、新語の正訳や訳しづらい語句の適訳が入手できるので実務でも有用である。また、翻訳後の訳文を逆方向にMTして、原文と照合する用途でMTを活用している。MTに残存する課題も継続してまとめている。
◎LDX hubを活用したハイブリッドPEの事例:伊澤 力 氏
AIと人手の二段階PEを行うハイブリッドPEを提案し、AIによるPEを反復させ人手のPEで検出したエラーをどの程度改善できたかを調べた。AIによるPEは1回で人手のPEで対処したエラーのうち75%を対処でき、3回以上反復することで95%を対処できた。
◎大規模言語モデルは多様な翻訳仕様に追従できるか?:萱野 陽子 氏/菅原 朔 氏
企業IR資料のMTにおいて、LLMに説得目的や芸術的目的などの翻訳仕様を与えた場合に、LLMの翻訳仕様への追従能力や評価基準の妥当性を、複数の原文・翻訳仕様・モデルに対して検証した。翻訳仕様に基づいた翻訳結果の評価においてLLMは人手評価と高い相関を示し、LLMに翻訳仕様を与えて生成した訳文は評価が高い傾向を示した。
◎機械翻訳出力に対するLLMを用いた後編集:早川 威士 氏
LLMを用いて英日翻訳のPEを行い、精度を評価した。MTの誤りを5タイプに分類し、LLMへの指示を8タイプに類型化した上で、6種類のモデルを用いて評価した。PEの正解率が高かった要因は誤りタイプで、繰り返しや数値誤りは修正が容易、意味的誤り、湧出し、訳抜けは修正が困難、という傾向が見られた。
◎生成AIの時代に翻訳者が主導する新しい翻訳システム:三浦 由起子 氏/津山 逸 氏
医療系の翻訳では、文書ごとに文の適切な長さや語調が存在し、それらに応じたPEが必要である。発表者自身が作成した医療特化型AI翻訳システムが、汎用MTエンジンであるGoogle翻訳より上記PEに適していることを、複数の翻訳例を比較することで示した。
◎ポストエディットが翻訳者の仕事満足度に与える影響:阪本 章子 氏
統計的手法を用い、MTPEと翻訳者の労働生活の関係を分析した。分析の結果、MTPEに前向きな翻訳者は翻訳の仕事を始めて間もないことが伺え、MTPEの仕事量増加は翻訳者の労働生活の質と負の相関があり、MTPEに前向きでも翻訳の仕事を続けたいわけではないことが分かった。将来の人材不足が懸念されるため、業界全体で施策を講じた方が良いと考える。
4. 招待講演
招待講演として、以下の3つの講演がありました。
◎翻訳からコミュニケーションへ──生成AIが変える現場のローカライズ
戸田 広美 氏(パナソニック コネクト株式会社 デザイン&マーケティング本部 コミュニケーション統括部 特命担当 兼 コーポレートPR マネージャー)
◎AIの進化と人の役割
吉川 健一 氏(株式会社BRIDGE MULTILINGUAL SOLUTIONS 代表取締役社長)
◎WEBサービスをローカライズする技術〜 Localize the Internetを目指して 〜
上森 久之 氏(Wovn Technologies株式会社 取締役 副社長COO/CPO)
下記のまとめは、講演資料と発表内容より、報告者が主観的にまとめたものであることにご注意ください。
◎翻訳からコミュニケーションへ──生成AIが変える現場のローカライズ:戸田 広美 氏
外資や国内の企業で、マーケティング部門を歴任したMTユーザーとしての立場から、MTと生成AIの特長に応じた使い分けについて述べる。パナソニックコネクトでは、2023年2月という早い時期から法人契約した複数種の生成AIを社員が自由に使える状態にした。生成AIの使われ方は「聞く」から「頼む」に変化し、社内に浸透してきた状況である。
自身の経験から、ローカライズ業務でのMTと生成AIの活用方法を紹介する。外資系企業では、急ぎ案件でMTと生成AIの翻訳結果を比較して自身で最終調整することが多かった。日本企業では、MTを活用し業務が高速化しておりネイティブの人でも一次翻訳にMTを使用している。さらには、生成AIによって人の作業はレビューと調整にシフトしている。残る課題は、セキュリティや機密度の制約で生成AIが使えない状況や、ニュアンスや文化など表現の調整を要する場合である。
今後は、MTが持つ大量処理や用語統一などの良い特長を基盤として、生成AIによる要約・言い換え・補足説明などを組み合わせ、人間が最終判断して品質保証する形に変わっていくと思う。AIを使いこなすためには人の知識も進化させていく必要があると感じる。翻訳は単なる文章の変換作業から、情報を最適な形で届ける技術、つまり誰にどう伝えるかというコミュニケーションに進化していくと考えられる。
◎AIの進化と人の役割:吉川 健一 氏
通訳サービスを主軸とする多言語ソリューション企業の立場から、通訳業務におけるMT・AIの役割と活用可能性について述べる。10年前にもAAMTで講演する機会があり、その際に通訳需要を、利用者が多く提携的な対応が中心となるマス領域、一定量の即時対応や双方向のやり取りが発生する領域、数は少ないが高度な専門性を要する領域の3段階に分けた。現在、MTは圧倒的にマスの領域に有効であり、双方向のやり取りもかなりの部分が任せられるようになってきた。しかし、またAIで代替できない部分もある。例えば、感情・衝突のある場面や、医療・法律・危機管理など、機微な翻訳が必要な場合、文化的背景や倫理的判断が必要となるため、AIではなく人が対応した方が良いと思われる。AIの進化により人の仕事は「専門性」「倫理判断」「共感」「状況判断」が求められる領域に高度化すると考える。
新型コロナウイルスの初動に関係した、日本政府観光局が設置した訪日外国人向けの通訳センターの対応例を紹介する。このセンターでは、オンラインで感染が疑われる問合せがあり、官邸等に連絡した経緯がある。このような判断は人間がやらなければいけないことだと考える。
最近では、滞在期間が短期の旅行者、中期の留学者、長期の滞在者のそれぞれに対して、通訳会社としてどのような事業展開ができるか、という検討も実施している。関係する省庁向けに、インバウンド対策や日本語教育など、それぞれの所管で必要となる対応を提案している。
◎WEBサービスをローカライズする技術〜 Localize the Internetを目指して 〜:上森 久之 氏
Wovn(ウォーブン)というWEBサービスのローカライズソフトウェア開発に携わってきた立場から、MTを多言語サービスに組み込む際の考え方や位置づけを整理する。Wovnは、既存のWEBサービスに後付けで多言語対応できる仕組みを提供している。多言語対応を自動化することで、WEBページの一貫性や新しいデザインへの変更が容易となる。
システム開発分野では、グローバル化と国際化、ローカリゼーションはそれぞれ異なり、G11n、i18n、l10nという区別がある。G11nはソフトウェアを世界対応するための様々な要素を含み、i18nやl10nを包含する。i18nは様々な地域・言語に対応するための基盤で、翻訳はl10nに関係する。翻訳は基本的にAIの翻訳を使っているが、人手翻訳を行うこともある。人手翻訳はAI翻訳と比べ1万倍くらい価格差があるので、範囲や言語ペアを限定して導入し、AI翻訳は範囲や言語ペアを気にせず導入、となる。また翻訳だけではないカルチャライゼーションには力を入れており、LLMを使うことが増えている。
Wovnの製品思想として、シンプルに多言語対応できることを目指している。バックグラウンドでは3人のAIエージェントが稼働しており、1人目が元のWEBサイトを収集する役目、2人目がテキストの翻訳や違う国向けのデザインに切り替える役目、3人目が外国語にしたコンテンツを埋め込むページを作成しドメインなどを国際化対応して公開する役目を担う。翻訳では、基本的にMTのAPIを呼び出すが、数字などの翻訳不要部分指定や、対訳集自動生成が可能である。MTエンジンは開発しない方針としており、MTやLLMについて翻訳品質や価格などの評価軸を設けて選定し、ラッピングした上でオリジナルのプラットフォームとしている。世界中で使われる製品にしていきたい。
5. おわりに
様々な翻訳目的に応じて、MTのみならず、LLMを組み合わせて翻訳品質を改善し、必要に応じて人が最終的な品質担保を行う、という形が一般化しつつあると感じました。また、その過程を経る中で人はさらに自らの専門性を高めていく、という「LLM時代における翻訳と人間の共進化」というテーマにふさわしい講演や発表が多く、大変興味深い年次大会となりました。今後の年次大会にもご期待ください。