AAMTジャーナル「機械翻訳」No. 84 温故知新

AAMTでは、AAMT創立30周年記念事業として、過去のAAMTジャーナルおよびJAMTジャーナル(AAMTの前身であるJAMT(日本機械翻訳協会)の会誌)をPDF化して公開しています。

https://www.aamt.info/act/journal/

公開されているジャーナルは次の通りです。

  • JAMTジャーナルNo.01,1991年7月~No.07,1992年8月(今回PDF化)
  • AAMTジャーナルNo.01,1992年11月~No.70,2019年6月(今回PDF化)
  • AAMTジャーナル「機械翻訳」No.71,2019年12月~(当初よりPDF版を公開)

「温故知新」シリーズでは、過去のAAMTジャーナルおよびJAMTジャーナルの記事を紹介します。

過去のジャーナル記事を読むと、当時のMTの事情が分かるとともに、現在も解決していない課題が残っていることが分かるなど、これからのMT発展に役立つものが多く見られます。

本号では、1994年3月号と1994年6月号のAAMTジャーナルから2つの記事を転載して紹介します。これらは、PDFからOCRで読み取ったテキストを修正したものです。画像等を含むオリジナルの原稿については、上記サイトをぜひご覧ください。

【1994年3月 AAMTジャーナル No. 6 より】

機械翻訳の今後の技術動向
Future Trend of Machine Translation Technology

通産省電子総合研究所 主任研究官 井佐原 均

今回は、機械翻訳システムの新しい技術動向について紹介します。

現在市販されている機械翻訳システムは、(当たり前だといわれるかも知れませんが)文法規則と辞書を使って、入力文を解析し、翻訳出力を生成します。これまで、このシリーズで行なってきた機械翻訳技術の解説も、このようなやり方に沿ったものでした。このようなやり方を、規則(辞書の記述も規則の一つです)を用いる手法という意味で、Rule-basedの手法と呼びます。このような手法で作られた機械翻訳システムの性能を向上するためには、これまでこのシリーズで説明されてきた構文解析や意味解析といった要素技術をさらに深く研究していくことが必要です。

また、実際にシステムが使う文法規則や辞書に書く情報を出来るだけ詳細なものにいくことも必要となります。

これまでは、翻訳システムが用いるさまざまな規則は、人間が自分の言語的直観に基づいて作成してきたわけです。つまり、自分が言葉を理解したり、話したりする時に使う知識を、規則の形に書き下ろしていたのです。しかし、規則が増えてくるにつれて、取り扱う情報が非常に大きなものとなり、全体としての見通しが大変悪くなります。そのため、このような人手に頼る手法だけでは、処理しきれなくなります。規則がどんどん増えていくと、一人の人間が全体を理解することが難しくなり、その結果、「どうしてこの訳がでてきたのか?」という素朴な質問にシステム開発に直接関わった人ですら答えられないということになります。直感に基づいて規則を作成している以上、どの程度の量の情報を集めれば、翻訳には十分なのかということに対する理論的なきちんとした答えはないのです。

また、規則は単に集めれば良いというものではなく、その規則をその時々に応じて適切に使うことが必要となります。つまり、機械翻訳に必要とされる知識には、規則(言語情報)そのものと、ある時点で適用できる規則が複数あった場合に、それらのうちのどれを使えば良いかを決める適用性の情報(優先順位付け)とがあることになります。これらを区別して、それぞれを適切に表現できる枠組が確立していないことも、見通しを悪くする原因となっています。

現実のさまざまな文書を翻訳することの困難さはこのような問題点を解決し、きちんと使えるようになった規則化された知識が不足していることから来ているわけでず。しかしながら、実際に世の中に存在する膨大な文書を対象に、その翻訳に必要とされる知識を人手で抽出し整理することは、ほとんど不可能でしょう。「それではどうすれは良いのたろうか?」この問いに対する答として、計算機に大規模なコーパスを直接処理させようという考え方が提案されました。

この手法の提案は、10年前に遡る[1、2]のですが、当時は大規模なコーパスを解析するのに十分な能力を持った計算機は大変高価なものでした。最近の計算機の高速化・低価格化により、大量のテータを比較的容易に処理することが出来るようになってきたため、事例を利用した(あるいは統計的手法を用いた)自然言語処理と呼ばれるこの手法が脚光を浴び始めたのです。

この手法の機械翻訳への応用としては、まず、事例を用いて翻訳を行なうシステム(Example-based Machine Translation)があげられます。

例を使って説明しましょう。playという英語の単語を日本語に翻訳する場合には、playの目的語に応じて、「(スポーツを)する」「(楽器を)演奏する」など、適切な訳語を選ばなくてはなりません。これを従来からの規則を用いた手法で翻訳する場合は、

”playスポーツ” → “スポーツをする”
“play楽器” → “楽器を演奏する”

といった訳し分け規則と

piano  (楽器)ピアノ
violin  (楽器)バイオリン
tennis (スポーツ)テニス
golf    (スポーツ)ゴルフ

といった、辞書(訳語と意味素性)とを用意することになります。この程度の情報の場合は、どちらも非常に簡単で分かりやすいのですが、一般の雑多な文章をきちんと翻訳するためには、もっと多くの情報を記述することが必要になり、規則を表現する枠組も、非常に複雑なものになります。

一方、事例を用いた翻訳システムの場合には、対訳とシソーラスを準備します。対訳として、

I play tennis.        私はテニスをする。
I play the piano.     私はピアノを演奏する。

シソーラスとして、

楽器

ピアノ
バイオリン
トランペット

スポーツ

球技

テニス
ゴルフ
卓球

というものが与えられていたとしましょう。

ここで、”I play golf.”という文が入力された場合、ゴルフが、テニスとビアノのどちらに、より似ているかをシソーラスを使って調べます。この場合には、明らかにテニスの方に似ていますから、システムは、”I play golf.”は”I play the piano.”よりも、”I play tennis.”の方に似ていると判断し、「テニス」を「ゴルフ」に置き換えて、「私はゴルフをする。」という訳文を生成します。

このようなシステムにおいては、対訳コーパスを検索し入力文に最もよく似た例を選び出す処理が一番重要な部分です。各単語の「似ている度合」を計算するためには、シソーラスを使う場合が多く、シソーラスの木構造の中での単語間の距離を使って計算します。

ただ、この例のように、単語が1つだけ異なっているような文(対訳例)がコーパスの中に含まれている場合は、現実の文章の翻訳では稀でしょうからほとんどの場合、適当な対訳を組み合わせて、一つの文を作ることが必要になります。このためには、入力と例との間で一致していない部分について、再帰的にコーパスの検索を繰り返す手法[3]等が提案されています。

事例を用いた手法の機械翻訳への応用としては、このようにコーパス中の対訳を使って直接翻訳をするものばかりではなく、事例から知識(あるいは統計的確率)を自動的に獲得しようとする試みも行なわれています。コーパスを使って、翻訳に必要な規則を作り出すわけです。この場合、原文を何らかの形で解析する必要があるわけですが、当然、完壁な解析は出来ません。誤った解析結果が含まれていたり、解析自体に失敗したりすることもあります。

しかし、十分に大きなコーパスを用いていれば、全体としては、間違った解析結果よりも、正しい解析結果がたくさん含まれることになり、意味のある情報を取り出すことが出来ます。たとえば、簡単な構文解析によって、文中の動詞に係る名詞を見つけ、動詞と名詞の共起の頻度を調べることにより、動詞の持つ格フレームを自動的に獲得する研究[4]などが行なわれています

また、自動翻訳を目的とはせずに、翻訳支援システムとしての使用を目的とするものもあります。翻訳したい文に類似した用例を検索し表示することにより、翻訳支援を行なうのです。ユーザが翻訳したい文を入力すると、システムはそれと類似した文を対訳コーパスから選びだし、その対訳と合わせて表示します。ユーザは、それを参考にして、自分が翻訳したい文の訳文を作成するのでず。もちろん、類似した文をどうやって選び出すかが問題となるわけですが、あらかじめ形態素解析されたコーパスを用いるものや、前処理をされていない対訳コーパスを対象に、文字列の類似度を効率的に計算する手法[5]などが提案されています。

事例を利用したシステムの特徴として、ユーザがコーパスに対訳を追加するだけでシステムの能力を向上することができるということがあげられます。システムの内部構造や自然言語処理に詳しくない人でも、対象とする言語を知っているならは、正しい対訳を追加していくことによって、自分の言語知識に沿って、システムの改良を行なうことが出来るのです。もし、あなたが、playという単語を翻訳する時に、「演じる」と訳した方が良い場合があると知っているならば、上で示した例に、

I play Romeo.      ロミオの役を演じる。

という対訳を付け加えれば良いのです

一方、規則に基づく手法では、システムを改良するために規則を追加する場合には、まず規則の記法を理解していなくてはなりませんし、規則を一つ追加したことによってシステム全体が崩壊してしまったりしないように、注意しなくてはなりません。例えば、”a→b”という文法規則と”b→a”という文法規則を入れたような場合、解析時にループを作ってしまうために、システムが暴走してしまうことがあります。事例を用いる手法では、用いるコーパスが十分に大きければ、一つの対訳を追加することによって、そのような崩壊が起こることはありません。ゴルフは、テニス、ピアノ、ロミオのうちでは、やはりテニスに一番近いでしょうし、”I play the violin.”という入力に対しては「私はバイオリンを演奏する。」と翻訳してくれるでしょう。

勿論これは、システムの性能が簡単に向上するということでは、必ずしもありません。コーパスを大きくしていくことはそれ自体、大変な労力が必要なものです。しかし、このようなコーパスは、個々のシステムとは独立したものであり、一旦作られたコーパスは他のシステムでも用いることか出来ます。あるいは、既に何らかの形で存在する対訳集を使うことも出来るでしょう。

このような、事例を用いる手法は今後一層の発展が期待される分野ですが、それと同時に、既に規則化されている情報が使える場合には、それを利用した方が効率的な場合も当然あるわけです。したがって、今後は、規則を用いた手法と事例を用いた手法とのそれぞれの特長を活かして、両者を融合することが検討されていくでしょう。そのようなシステムでは、言語処理の各時点で利用できる情報のうちで、最も特定化されている情報を用いるという方針で処理が進められることになります。このような手法は人間の言語処理過程と類似しており、高速な自然言語処理が可能となります。

機械翻訳においては、たとえば、完全に一致する例が見つかれば、それを用いて翻訳を行なう。なければ、類似した用例を利用する。それも困難な場合には、規則に基づいて解析・生成を行なう、というようになるでしょう。先ほどの例でいうと、”I play tennis.”という文が入力された場合には、完全に一致する文がありますので、そのまま対訳中の訳文が出力されます。挨拶文の翻訳などで、このようなことがよく起こると思われます。また、”I play golf.”という文が入力された場合には、すでに述べたように、事例”I play tennis.”を使った翻訳が行なわれます。さて、もし、コーパスに疑問文が含まれていなかった場合に、”Do you hate sleep?”という文が入力された場合には、(少なくとも疑問文固有の部分については)文法規則を用いて解析し、訳文を生成します。もちろん、疑問文を解析する規則をシステムが持っていなくてはなりませんが。

マニュアル等の翻訳では、一旦翻訳した文書の修正版を翻訳することが、しはしば起こります。そのような場合には、以前に翻訳したものをできるだけ使いたいと考えるでしょう。この手法は、そのような状況に対応できることにもなります。

このように考えてきますと、従来からの規則を用いる手法も、やはり重要であるといえます、これまで自然言語処理の研究においては、自然言語の持つさまざまな曖昧性を計算機が正しく理解し、それを解消するためには、意味情報あるいは文脈情報が必要であるということが強調されてきました。そのために、表層の言語現象を詳細に検討するという立場が軽視されていた点があります。その結果、簡単なシソーラス程度の知識と構文解析によって構文構造をかなり正確に把握できるような場合があるにも関わらず、それを意味に関わる困難な問題として放置しておいた面も見られます。詳細な、そして当然膨大な意味情報を用いる意味解析は、もちろん重要な技術ですが、人間が文章を読む場合には、文の内容を完全には理解していなくても、文章の構造(並列句や係り受けなど)をある程度、判断できる場合があることから、人間は言葉の理解過程において、「浅い」意味を有効に用いているものと思われます。このような点に注目した研究の例としては、従来、深い意味処理の対象とされていた名詞句あるいは連用中止による述語の並列構造を、文節同土の類似性を計算することにより、かなりの精度で決定できることを示したもの[6]などがあげられます。 なお、自然言語処理における困難な課題を避ける手段の一つとして、取り扱う領域を限定しようという考え方もあります。この場合、実際には、領域を限定することによって、取り扱う知識の範囲だけではなく、取り扱う言語表現(あるいは言語能力)をも制限していることになります。特定の場面で発話される文は、その言語で.可能なすべての言語表現の中では、ほんの一部となります。そのような制約があることによって、辞書中に表層の情報に対応した知識を書き込んで行くことが可能となります。自然言語処理において、辞書の記述が主要な知識源であることは、どのような手法を用いる場合にもいえることであり、現実の文章から着実に辞書記述を改良して行くことは、最も重要な作業の一つです。

《参考文献》

[1] M. Nagao. Some Rationales and Methodologies for Example-based Approach. Proc. of International Workshop on Fundamental Research for the Future Generation of Natural Language Processing, 1992.

[2] M. Nagao. A Framework of a Mechanical Translation between Japanese and English by Analogy Principle. In A. Elithorn, ed. Artificial and Human Intelligence, Elsevier, 1984.

[3] 佐藤理史、MBT2: 実例に基づく翻訳における複数翻訳例の組み合わせ利用、人工知能学会誌、Vol. 6、No. 6、1991.

[4] R. Grishman, et al. Combining Rationalist and Empiricist Approaches to Machine Translation. Proc. of Fourth International Conference on Theoretical and Methodological Issues in Machine Translation (TMI-92), 1992.

[5] S. Sato. Example-based Translation Approach. Proc. of International Workshop on Fundamental Research for the Future Generation of Natural Language Processing, 1991. [6] M. Nagao, et al. Dynamic Programming Method for Analyzing Conjunctive Structures in Japanese. Proc. of COLING’92, 1992.

[6] M. Nagao, et al. Dynamic Programming Method for Analyzing Conjunctive Structures in Japanese. Proc. of COLING’92, 1992.

【1994年4月 AAMTジャーナル No. 7 より】

ヨーロッパの現在のMT活動

UMIST・KIT ラルフ・スタインバーガー

1992年末をもって、10年間にわたりヨーロッパ連合(EU)が膨大な努力を注いだMT研究(EUROTRA)終わったが、現在さえ、TRADEとCAT2-EDSなどのヨーロッパにおけるMT活動のかなりの部分はEU主導であり、資金供与を受けている。これらのEU関連の活動の他に、ヨーロッパのいくつかの企業が商業システムの開発に投資している。主だった企業プロジェクトとは、METAL(ドイツ・シーメンス社開発)、EUROLANG(フランス・ソフトウェアハウスのSITE開発)などである。どちらのシステムにも、従来の第2世代技術が多かれ少なかれ使用され、非常に精巧なツールとの併用により、翻訳者の仕事をより効率化する。新しく従来とは異なるアプローチを採用するのはVERBMOBILプロジェクトで、これはドイツ連邦政府の開発技術庁BMFT(Bundesministeriumfuer Forschung und Technik)のスポンサーで開発されたものだ。

VERBMOBILは、音声言語翻訳を必要とするバイリンガルユーザの支援ツールを目指す。そのほかのMT活動には、PaTrans (デンマークEUROTRAべ一スのインハウスシステム)、欧州シャープが開発する多言語商業ソフトウェア(英国・英語、ドイツ語、フランス語、日本語)ならびにマンチェスター大学で進められるMEG(英国・UMIST)、これはエグザンプルベース技法を用い、雪崩情報を英語、フランス語、ドイツ語およびイタリア語に翻訳する。

有名なヨーロッパのMTプロジェクト

EUROTRAは、10年以上かかってヨーロッパ共同体(EC)の12力国すべての参加を得た共同作業を1992年に終えた。のべ200名の研究者が平行して研究を行い、37,500万ECU(ヨーロッパ通貨単位)をかけたこのプロジェクトの成果発表は、1992年にフランス(ナント)で開かれたコンピュータ言語学の国際会議COLINGで提示された。

EUROTRAは、多言語のルールベースMTの将来性とリミットについて、統計的手法とトランスファベース手法を使用して調査するという目標があり、非常に野心的な研究プロジェクトだった。

EUROTRAが負った政治上の制約とは、平等性を理由に、EC加盟の12カ国すべてがかかわらなければならなかったということである。そのため、9つの公式ヨーロッパ共同体言語すべて (英語、ドイツ語、フランス語、オランダ語、デンマーク語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、ギリシア語)という、およそ管理可能な範囲を越えた数の言語を同時に扱う必要があったのである。これら9つの言語を各々ソース言語とターゲット言語として用いると、言語対は72、翻訳方向が144にのぼる。これに対して、商業翻訳ソフトウェアの大部分が扱うのは2つの言語であり、ソフトウェア開発者は単一の翻訳方向だけを提供する場合が多い。

最終的研究成果評価委員会(英国人ブライアン・オークレー座長)が設定したEUROTRAの主要な成果の1つとして、ヨーロッパ全域に数百人の専門NLP学者を組織化し訓練するプランがあった。具体的な目標とは、それまでNLPに関する経験が浅い、もしくは全く持たないポルトガル、スペイン、アイルランド及びギリシアなどの国へ、NLP知識を移植するというもので、これは首尾よく達成された。

前出の評価委員会によりこれまでにEUROTRAが蓄積した資料と経験について、さらに多くの実用化を図るため、より小規模のフォローアッププロジェクトの開始が示唆された。ECでも、EUROTRAその他の研究開発プロジェクトにおける学界と産業界の両方にかかわる多国籍プロジェクトを共催した経緯から、この提案を認めている。プロジェクト参加企業に各社の研究開発費用の50%以上を分担させることで、EUは、アプリケーション指向の研究を促し、かつ、企業側がアカデミックなノウハウから利益を得させようとした。

多言語アクションプラン(MLAP)の予算枠によって、EUは2つのMTプロジェクト、TRADEとCAT2-EDSに共同出資した。これらはいずれも1994年に2力年計画で開始されたもので、研究課題は、EUROTRAタイプのシステムからプロトタイプを開発し、より少数の言語対について、さらに制限された言語領域(サブランゲージ)を用いる場合も、この方式でリーズナブルな翻訳結果が得られると示すことである。

トランスレーションデモンストレータ(TRADE)は、専門化した社会保障ドメインの英語とスペイン語とイタリア語のテキストを、他の言語(6つの翻訳方向)のいずれにも翻訳する。TRADEはスペインのソフトウェアハウスCentro de CaIculo de Sabadel が、コオーディネーションを行い他のパートナーとしてUMIST(英国・マンチェスター大学)とFundacio Bosch Gimpera(スペイン・バルセロナ)とGruppo DIMA(イタリア・トリノ)とINPS(イタリア社会保障機関)である。Eスターと呼ばれるGruppo DIMA開発のもので、EUROTRAから派生した形式を採用している。

TRADEは、3つの言語に対し、EUROTRA文法と辞書の最適化されたバージョンを利用する。既存の資源の再利用の他に、辞書ツールの利用で、専門辞書を各言語あたり5000単語のデモンストレーションサイズに拡大できる。その他の機能として、長文を分割するテキスト・セグメンテータなど、ユーザインタフェースが開発される予定だ。さらには、形式はEUROTRAと異なり、不当な入力や、未知語を含む文をも扱えるように強健になる。

MLAP枠で資金供与を受けた第2のプロジェクトは、CAT2-EDSと呼ばれ、ドイツの会社エレクトロニク・データ・システムズ(EDS)がコオーディネーションした。このうちCAT2は、EUROTRAに、参加した「応用情報科学研究所」(IAI=ドイツ・ザールブリュッケン)によって開発されたもので、やはりEUROTRAファミリーの一つである。その他、UMIST(イギリス)とフランスパリ第七大学のタラナ研究所が開発に参加している。TRADE同様の機能を備えるものとなるだろうが、CAT2-EDSチームは1995年中には、ドイツ語・英語・フランス語相互のMTとして、オペレーティングシステムメッセージとソフトウェアマニュアルの翻訳専門の、プロトタイプを提示するだろう。

より少ない言語対を対象として使用する場合、また専門化された分野のサブランゲージに適用するとき、EUROTRAのような形式が成功するという点は、最近、デンマーク語・英語のMTシステムPaTransによって、示された。PaTransは実際にEUROTRA形式を基礎に開発され、デンマーク語と英語の文法を用いた。TRADEやCAT2-EDSと異なり、PaTransは、デンマーク言語技術センター(デンマーク・コペンハーゲン)が単独で開発した。1言語対だけを翻訳対象として、原言語は英語に制限している。

PaTransの研究資金はEU供与ではなく、デンマークの特許翻訳企業Lingtechおよび開発者であるCSTの自己資金である。2年の開発期間の後、1993年の終わりにインハウスのMTシステムを配布した。開発者とクライアントの両方が翻訳結果に満足したことから、サブランゲージへと研究対象を拡大する計画である。

これらのアプリケーション指向プロジェクト開始の他に、EUは、中・長期の目標として、ヨーロッパ圏内のMTソフトウェアその他のNLP応用技術の開発を上げている。これらの目標とは、共同開発を通じて、9つのEU公用語すべての標準化を図り、言語資源を作成すること、および、それらの取得・生成・適用およびそれらを多くの目的のために応用するためのソフトウェアツールの開発を含む。この言語学的インフラは、EU圏内のすべての企業と研究機関の利用に供することで、研究者と開発者のために非常に貴重な資源となるだろう。現在のEUにおけるMT関連の諸活動の成果が、時間とお金の節約を助けるだけにとどまらず、さらに将来の文法の開発と、辞書及びツールの再利用を促すよう、望まれる。EUにおけるこの方向の貢献の例として、ALEPとLS-GRAMの2つを取り上げたい。

ALEP(高度言語エンジニアリング・プラットフォーム)は言語対象をトレイシングしデバッグし見るためのツールを持つ形式で、グラフィックのユーザ・機械インタフェースとテキスト処理システム他、すべてのNLP開発に必要なツールがある。

1991年以来開発を支持するEC委員会(CEC)がALEPに期待するのは、堅固かつ携帯可能で広く実用可能なソフトウェア・プラットホームの確立であり、専門化されたアプリケーションのプロトタイプの開発にこれを提供することだ。CECでは、産学一致してこのプラットホームを使用し、多くのさまざまなNLPアプリケーションを開発すれば、それら研究開発の結果は、ヨーロッパ全域でコンパチブルかつ再使用可能な状態となるという理想像を描いていた。すなわち、この共通のプラットホーム利用を通じて、学界および企業の研究機関の間にシナジーを助成するわけである。ALEPの最終バージョンは今年中に実用化されるだろう。

ヨーロッパでは、完全なNLP研究のインフラを確立するため、もう一つの主要なプロジェクトLS-GRAM(EC言語のための大規模文法)が進められてきた。研究期間2年のこのプロジェクトは、9つすべての公用語の大規模なドキュメンテーションを含む、コア文法をヨーロッパNLP学界へ提供することを目指した。文法はALEPを用いて書かれ、それらは「基本セット」としてALEPを使用するすべての研究開発機関に分配される予定だ。ALEPとコア文法の利用が、ヨーロッパ全域の産学協同をさらに助長し、またそれがアプリケーション開発に対しても、トレーニングや研究、実用化を意識したものを生む基盤として魅力あるものとなるよう、望まれている。1994年開始の同プロジェクトの中心となった「応用情報科学研究所」(IAI=ドイツ・ザールブリュッケン)はじめ、エセックス大学(イギリス)、Fundacio Bosch Gimpera(スペイン・バルセロナ)スツットガルト大学(IMS-CL・ドイツ)が参加した。1993年までにECが言語学関連のプロジェクトに対して行った資金供与は総額1,5億ECUに上る。内訳は、MLAP(1977年~)、EUROTRA(1982~92年)、LRE(1991年~)、そしてESPRIT(1984年~)関連である。これらの諸活動は、1994年から98年にかけて「第4次基幹プログラム」に編入され、予算規模4億ECUを投入して継続される。

しかしながら、ECの一般的原則として、加盟諸国諸地域が独力では行えない研究活動、すなわち標準化の開発と各の研究努力の連携を図ることに助成対象が決められている。商業的指向の強いプロジェクトは、企業自身が資金供給しなければならない。ここで取り上げる主要なMTプロジェクトは、既存のMETALシステム(ドイツ企業シーメンス開発)EUROLANG(フランス中心の商用プロジェクト)およびドイツの国家研究プロジェクトVERBMOBILである。

METALの開発は1960年代半ばにアメリカ・テキサス州のオースティン大学で始まった。1978年より、同プロジェクトはドイツ・ミュンヘンに本拠を置くシーメンス社の支援を受け、80年には同プロジェクトは同社に移籍された。同社はドイツ語一英語の市販版をリリースしたのは89年になってからである。また92年まで、同システムは稼働システムが限られており、記号リスプマシンもしくはシーメンス社のワークステーションをソフトウェアと同時に購入するほかなかった。そのため、価格的にも25万DM(ドイツマルク=約1,500万円)となり、販売実績は20台以下であった。

その後、シーメンス社は翻訳対象言語対を拡大、英語、ドイツ語、フランス語、オランダ語、スペイン語、デンマーク語を加えた。また、SUNワークステーションに移植、現在では約5.5万DM(約330万円)で販売している。

METALの特徴は、フルオートマチックな翻訳の提供に加え、ユーザに便利なツールを多く用意した点だ。大型の専門辞書、セミオートマチックな辞書アプデート機能、また後処理のための機能などが含まれている。ユーザにとっては、図表を含む入力文の書式が保存されるため、翻訳結果が入力文と全く同じ書式で得られる点が、時間短縮の大きな味方である。

シーメンス社は、フランスのSITE社が率いるEUROLANGの開発にも参加しているが、このプロジェクトには10以上のヨーロッパの企業および大学が名前を連ねる。1992年~1994年の見込み予算は7億3500万ECUである。1994年末までにSITEは、ドイツ語、英語、フランス語、イタリア語、スペイン語(その他多くの言語が計画中)の全自動MTのみならず、完壁な「翻訳者のためのワークベンチ」の完成と提供を計画している。全自動翻訳は、フランスのAriane(GETA)システムとMETALシステムの両方で行われる。

METALがもたらすツールやその他の利点以外にも、EUROLANGは、人間翻訳の支援として、理想的なワークベンチの役割を担う。一般辞書、専門辞書ともオンラインでいくつも提供する上、用語管理ツール、あるいは前回翻訳したテキストを検索するツールを提供できるからだ。特に後者は仕事のむだな重複を防ぎ、例えば修正やデータ更新を行った文書の翻訳には有効である。用語管理ツールはデータベースとして同システムを利用する複数の翻訳者に利用され用語統一に役立つ。EUROLANGは、SUNワークステーション上を走るだろう。

もう一つ、より研究指向の高いプロジェクトとしてVERBMOBILがある。これはドイツ人工知能研究センター(DFKI=Deutsches Forschungsinstitut fuer Kuenstliche Intelligenz)といって、ドイツ政府(BMFT=Bundesministerium fuer Forchung und Technik)が資金供与するものだ。VERBMOBILの目標は大胆で、対面型の会話のために、携帯用のドイツ語英語日本語翻訳支援のプロトタイプを作成することである。2年の準備研究の後、プロジェクトは1993年に公式に始まり、2001年終了を計画している。

VERBMOBILはさしあたり国家プロジェクトであるが、アメリカと日本人のパートナーとの共同研究が計画されている。日本では、同様のプロジェクトを行っている京都のATR音声翻訳研究所との協力が検討されている。アメリカでは、カーネギーメロン大学、スタンフォード大学のCSLI及びバークレイの国際コンピュータ科学研究所(ICSI)との共同研究が準備された。ドイツ国内での研究提携先は、シーメンス社、ダイムラー社、テレフンケン社及び9大学が含まれる。

VERBMOBILは、電話の会話の自動逐次翻訳システムとは規定されていない。むしろ、面と向かってともに英語を話す日本人とドイツ人に対して、会話の細かい表現に困ったときに支援するものである。この二人が何か英語表現で問題を感じたらすぐその場でVERBMOBILを動かすと、日本語かドイツ語の単語の英訳を即座に与えられるわけだ。これらは整った文の形である必要はない。翻訳プロセスは増加つまりシステムは直ちに荒翻訳を提供することができるし、もっと時間があるなら、さらに洗練された翻訳を代わりに提供することもできるのだ。

最初のデモンストレーション版は1995年リリースの予定だが、その会話のシチュエーションは、2人のビジネスパートナーの会合という設定で、目の前にカレンダーを広げて次のミーティングをいつ行うか話し合っている。このバージョンから2001年の完成版までに、アプリケーションドメインは徐々に広げられるだろう。

このプロジェクトの主要な目標は非常に野心的で音声の認識と合成、ダイアローグと知識処理及び機械翻訳など、高度な情報テクノロジーと自然言語処理の各分野を、統合化することである。最初の4年で、BMFTの資金は6,000万DMに達した。またVERBMOBILへのドイツの総合的な投資は、たぶんプロジェクト終了までに12,000万ECUに届くだろう。 これらのプロジェクトの他に、ヨーロッパではNLPの分野で多くの他の活動が行われている。多くのアプリケーションは、研究成果を即座に実用化する方向であり、例えば文法と文型のチェッカー、自動テキスト分類機能及び知的情報検索などが上げられる。しかしながら主にEU主導だが、多くは中・長期的な目標達成を目指している。将来的な投資として、大きいコーポラや他の言語学のデータ収集、評価テクノロジーの開発、既存の資源の再利用性の検討、コーポラからの知識取得の自動化、その他を含むアクティビティが行われている。ヨーロッパには、言語障壁に打ち勝つことにおいて経済的、政治上の大きな関心がある。いくつかの不可避な退行があったにもかかわらず、健全なNLPインフラの構築を目指し、協調して努力することを通して、ヨーロッパ諸国はこの問題を解決しようとする強い姿勢を示している。

温故知新

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