AAMTジャーナル「機械翻訳」No. 83 ユニバーサルコミュニケーションと機械翻訳

1. 謝辞

この度は、AAMT長尾賞という大変名誉ある賞を賜り、誠に光栄にです。

多くの皆様にご指導、ご支援いただき、このような素晴らしい賞を頂戴することができましたことを、開発を担当した弊社メンバーをはじめ、関係者の皆様方へ、心より感謝いたします。

2. ユニバーサルコミュニケーションと機械翻訳

“ユニバーサルコミュニケーション”と聞いて、翻訳アプリケーションや同時通訳システムを思い浮かべるでしょうか。

国籍や年齢、障がいなど、誰もがストレス無くコミュニケーションできること。それがユニバーサルコミュニケーションですが、現状では、「機械翻訳技術」が重視されているように感じています。

機械翻訳で『言葉の壁』を超えるだけが“ユニバーサルコミュニケーション”ではありません。『言語の壁』以外にも「聞こえにくい」、「見えにくい」、「話しにくい」などの課題を解決できるのが本当の意味での“ユニバーサルコミュニケーション”なのです。

3. VoiceBiz® UCDisplay®の開発経緯

弊社はVoiceBiz® UCDisplay®を様々な利用者に対して「誰もが分け隔てなくコミュニケーションを取れるように」という想いを込めて開発しました。

VoiceBiz® UCDisplay®は、VoiceBiz®という翻訳アプリケーションが前身にあります。2012年に5か年計画で行ったNICTの委託研究「自治体窓口向け音声翻訳サービスの研究」※1の成果を社会実装したのが、VoiceBiz®なのです。VoiceBiz®は現在、多くの自治体や企業に導入して頂いており、海外の方とのコミュニケーションに役立っています。

しかし「相手が目の前にいるのに、目線が手元のタブレットやスマートフォンに行きがちで、コミュニケーションに不自然さを感じる」という、利用者からの声がありました。“目は口ほどに物を言う“という諺があるように、「相手の目を見て話す」ことはコミュニケーションにおいて重要なことなのです。

また、利用者から「耳の不自由な者との方とコミュニケーションで使う事は出来ませんか?」という問い合わせも、数多く頂きました。ユニバーサルコミュニケーションを実現にするには、VoiceBiz®では不十分なのではないかと感じていた時、世間では“COVID-19”が猛威を振るい、受付窓口ではパーティションが設置され、街中ではほとんどの人がマスクするという状況になりました。その時に「パーティションで声が聞こえにくい」、「口元が見えないから何を言っているか読み取れない」といった耳の不自由な方の声を聞きました。

そのような状況下でも、“誰とでもコミュニケーションが取れる窓口“。これを実現させるにはどうしたらよいかを考えていたところ、透明ディスプレイの存在を知り、「これをパーティションの代わりにしてそこに文字が出れば声が聞こえにくくても、コミュニケーションが取れるのではないか」という考えに至りました。

これにより翻訳サービスのVoiceBiz®をベースにアプリケーションをカスタマイズし、タブレット端末と透明ディスプレイ、それと高指向性マイクを組み合わせてVoiceBiz® UCDisplay®の開発に成功しました。

4. VoiceBiz® UCDisplay®の活用 

VoiceBiz® UCDisplay®の活用の用途は、大きく外国人支援と耳の不自由な方の支援に分かれています。外国人支援に重点に導入されているのは「鉄道の駅窓口・切符売り場」「ホテルのフロント」「スキー場・水族館などのレジャー施設」「百貨店・ショッピングモールなどの総合案内」また最近では「レンタカーの受付」など。

更には耳の不自由な方の支援目的では自治体の福祉課や、障がい者雇用を行っている企業において、面談や作業指示などで活用されています。

また、EXPO 2025 大阪・関西万博でも案内所、アクセシビリティセンター、メディアセンターに設置されており、様々に利用されています。

導入事例を1つ紹介します。長野県にある「歴史の宿 金具屋」は映画の舞台のモデルとしても知られる情緒あふれる老舗旅館で、外国人観光客の増加に伴い、言葉の壁を乗り越えることが、おもてなしの重要な課題となっていました。

今までは小型の端末型翻訳サービスを導入していましたが、操作が複雑で、旅館特有の言い回しや、日本の文化に根ざした表現がうまく伝わらず、意図しない訳になってしまうことが多々あり、これではせっかくの『おもてなしの心』が十分に伝わらないというジレンマを抱えていたとのことです。

VoiceBiz® UCDisplay®の導入後は、旅館での過ごし方や交通案内といった、お客さまが安心して滞在するための情報提供をスムーズに伝えることができるようになり、また、アレルギーや病気の名前など、お客さまの健康に関わるようなデリケートな内容のコミュニケーションにおいても非常に重宝し、「お客さまに大きな安心感を提供できるようになった」とのお声を頂いています。

5. おわりに

11月開催の、東京で初めてのデフリンピックでは、「聞こえない・聞こえにくい方」とのコミュニケーションを支援する様々なサービスが活用される予定です。音声や文字だけではなく、手話も“一つの言語”として重要なコミュニケーション手段です。

VoiceBiz® UCDisplay®は手話にはまだ対応出来ていませんが、将来的には様々なパートナーとの共創で、手話にも対応したユニバーサルコミュニケーションサービスを開発・展開していて行ければと考えています。

デフリンピックをきっかけに、ユニバーサルコミュニケーションサービスの認知が広がり、近い将来には、利用者が誰とでもコミュニケーション可能なユニバーサルな窓口が、当たり前のように設置されている社会になることを期待するとともに、弊社もその一助になるべく今後も活動していく所存です。

※1国立研究開発法人情報通信研究機構の委託研究 自治体向け音声翻訳システムに関する研究開発 1800101

AAMT長尾賞

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