AAMTジャーナル「機械翻訳」No. 83 編集後記

つい先日、日本では新しい自民党総裁が誕生し、ほどなく新たな総理大臣が誕生することになります。この雑誌が刊行される頃には新内閣がスタートしていることでしょう。いま、社会全体が大きな変化の只中にあることを日々実感します。価値観や制度、そして人間の生き方そのものが再構築されつつある時代です。その変化の大きな要因の一つが、人工知能(AI)の急速な進歩でしょう。

機械翻訳は、AI技術の中でも特に社会への実装が進んだ分野の一つです。近年は、観光案内や鉄道・交通機関、飲食店、行政サービスなど、あらゆる場面で機械翻訳が自然に使われています。もはや「翻訳機を使う」という意識すら希薄になり、ごく当たり前のこととなりました。翻訳という行為が、社会インフラの一部へと静かに溶け込んでいったのです。

子どものころ、アニメ『ドラえもん』に登場する「ほんやくコンニャク」に夢を抱いた方も多いでしょう。言葉の壁を超える道具は、当時は空想上の象徴でした。しかしいまや、私たちはスマートフォンを介して、リアルタイムで異なる言語の人々と意思疎通ができます。人の想像力が技術を生み出し、技術が再び人の想像力を刺激する。その循環の中に、翻訳技術の発展が位置づけられていると感じます。

今号では、AAMT長尾賞学生奨励賞の受賞者やAAMT若手研究会など、若い世代の方々による寄稿が多く集まりました。いずれの論考からも、既存の枠組みにとらわれない新しい視点と、実践的な問題意識が感じられます。若手研究会は今後も毎年3月に行いますので、機械翻訳に限らず翻訳に関する知見のある方の発表をお待ちしています。

機械翻訳の技術は、この十数年で飛躍的な進歩を遂げました。統計的機械翻訳からニューラル機械翻訳(NMT)へ、そして大規模言語モデルによる生成型翻訳の時代へと移り変わっています。その過程で、翻訳の品質だけでなく、「翻訳という行為の定義」そのものが変化しつつあります。AIが言語の意味構造を理解し、人間がその文脈的・文化的意義を補完する――そうした共創的翻訳のあり方が、今後ますます重要になると考えます。

そして、心で思ったことがそのまま伝達されるような未来が、もしかするとそれほど遠くないかもしれません。そのとき私たちは、何を「伝える」と感じ、何を「言葉」と呼ぶのでしょうか。AIが媒介する言語の未来は、人間の思考と感情の在り方をも問い直す可能性を秘めています。恐れを抱きつつも、理性的な好奇心をもって、次の時代を見つめていきたいと思います。

なお、今号から誌面のフォーマットを一部変更し、読みやすさと視認性の向上を図りました。余白のとり方、フォントの調整など、細部にわたって改良を重ねています。ご意見やご感想がありましたら、ぜひ編集部までお寄せください。読者の皆さまの声をもとに、より開かれた、知の共有の場としての誌面づくりを目指してまいります。

技術がいかに進歩しても、言葉を介して人と人が理解し合うという営みの本質は変わりません。機械翻訳はその過程を支える知的基盤として、今後も社会とともに進化していくでしょう。AAMTは来年で創立35周年を迎えます。本誌が、これからもその歩みを記録し、次代の研究者・実務者にとっての羅針盤となることを願っております。

編集後記

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