AAMTジャーナル「機械翻訳」No. 84 機械翻訳の進化と共に歩む―「AAMTセミナー」のこれまでとこれから

1. はじめに

会員の皆さま、いつもAAMTの活動にご協力いただきありがとうございます。

 

私は2022年に一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)の理事に就任し、セミナー委員長を拝命しました。機械翻訳(MT)技術の発展・啓発の一環として、MTに関するトピックを継続的に発信する定期セミナーを企画・運営するわけですが、有料開催という責任の重さに、身の引き締まる思いでスタートしたことを覚えています。

2. AAMTセミナーのこれまで

セミナーを始める頃、MTを取り巻く環境は大きく変わり、長年の研究の蓄積が一気に応用段階へと移行し、現場で「使える」技術が次々と登場し始めた時期でもありました。この素晴らしい技術を一部の専門家だけのものにせず、翻訳者、翻訳会社、企業、研究者など、できるだけ多くの方に届けることで、MTの社会的価値の底上げに貢献したい―そんな思いでセミナー運営に臨み、研究とビジネス経験を持つ心強い理事2名とともに、年間5回程度のペースで企画・開催してきました。

 

2023年、第1回を長尾賞受賞者発表と組み合わせ、第2回ではMTを活用した論文作成術、第3回では英文IR作成術と、研究・実務の双方に役立つテーマを取り上げました。2年目の初回にはポストエディット(PE)に関する翻訳者アンケート結果を共有し、第2回では大規模言語モデル(LLM)の登場を受け、アジア・ヨーロッパのAI市場分析や生成AI利用の法的留意点など、まさに時代の変化を映す内容となりました。

2024年度には、MTPE導入事例、機械学習を用いた音声解析の研究事例、NMTとLLMの活用、政府関係者によるAI事業者ガイドラインの紹介など、多様な講師、視点からの講演が実現しました。

2025年には、国産LLMの研究成果報告や、MT・LLMの精度向上が翻訳業界にもたらすインパクトについて、経済的観点からお話しいただく機会もありました。PEガイドラインの実践的な解説に加え、マンガ翻訳へのLLM活用、翻訳に特化したLLM開発モデルの紹介など、毎回、「今、現場で知りたいテーマ」を意識して企画してきたつもりです。

 

講師を招いたセミナーだけでなく、次世代の育成にも力を入れています。その一つが、3月に開催している「AAMT若手翻訳研究会」です。MTの啓発・普及を促し、技術の発展を目指す取り組みとして、翻訳・通訳に関する様々なトピックの研究事例を募り演題発表を行っています。

2023年第1回目は「サブセット探索を用いた高速なkNNニューラル機械翻訳」、2024年は「What language do Japanese-specialized large language models think in?」が最優秀賞を受賞、それぞれの素晴らしい発表内容に大きな勇気をもらいました。2025年度は、年齢の制限を取り払い、翻訳者、通訳者、翻訳・通訳会社、学生、研究者など、より幅広い層に門戸を開き、「AAMT翻訳通訳研究会」に改称。3月18日に無事終了し、現在選考作業が進行中です。応募テーマの幅広さと熱量からも、この分野への関心の高まりを強く感じています。

3. AAMTセミナーのこれから

2026年度からは、大学、研究開発、翻訳者育成などに携わる新たな理事3名が加わりました。アカデミアとビジネス双方の視点を持つAAMTならではの強みをさらに活かし、より実りあるセミナーをお届けできると期待しています。

AAMTは、学会ではありませんし、業界団体でもありません。研究で生まれた技術を、現場で「使える形」に落とし込み、精度や機能を高めながら社会実装していくアカデミアとビジネスの融合体であり、その橋渡し役を担う存在だと考えています。

LLMやMTを含めた自然言語処理技術は日進月歩で進化しており、そのスピードは今後も加速するでしょう。その行き先は誰にも完全には予測できません。だからこそ、私たちは「技術そのもの」だけでなく、「それをどう使うか」「誰のために使うか」を問い続ける必要があります。

 

AAMT創立者の⻑尾真初代会長は、「MTは世の中を平和にする」とおっしゃっていました。私たちはこの言葉を、単なる理想論ではなく、AAMTの活動の根底にある指針として受け止めています。言葉の壁を少しでも低くし、誤解や対立を減らすこと。その一歩一歩の積み重ねが、ビジネスの効率化や業務拡大だけでなく、より良い社会づくりにもつながっていくと信じています。

AAMTの理事として、翻訳会社の立場から、そして一人の翻訳・言語サービスに携わる人間として、MTやAI翻訳を、共に「理解し、活かし、育てていく」立場でありたいと思っています。

これからも会員の皆さまとともに、学び合い、試行錯誤しながら、このダイナミックな変化の時代を前向きに歩んでいければ幸いです。

会員の方はこのセミナーへの参加は無料となりました。AIを活用した業務展開のためにもこのメリットを生かし、これからもご支援、ご参加よろしくお願いいたします。

<過去のセミナー>

第19回 第1回AAMT翻訳通訳研究会

第18回 PLaMo翻訳:LLMによって進化する機械翻訳モデル

第17回 マンガ機械翻訳の現在地と展望~LLMで解けたこと、解けていないこと〜

第16回 AAMTポストエディットガイドライン解説~成功への実践ガイド~

第15回 MTをマネタイズできるか~マーケティングフレームワークからヒントを探る~

第14回 大規模言語モデルSwallow~英語から日本語へ言葉の壁を越える~

第13回 第2回AAMT若手翻訳研究会

第12回 AI事業者ガイドラインのご紹介

第11回 翻訳ワークフローにおけるNMTとLLMの活用~LLMのインテリジェンスとそれを用いた自動ポストエディット~

第10回 新規アルツハイマー病治療薬の進展を見据えた認知症診療の展望~音声解析を用いた早期診断~

第9回 成功事例に学ぶ、機械翻訳およびMTPEの導入方法

第8回 第1回AAMT若手翻訳研究会

第7回 生成AIの隆盛を踏まえた機械翻訳サービスの開発・提供と利用に際しての法的留意点

第6回 アジア・ヨーロッパにおける「AI翻訳」ビジネス市場分析及び生成AI翻訳の現状から

第5回 激動のAI業界~これからのデータ構築にどう取り組む?~

第4回 ポストエディットの真実~英日PEに従事した翻訳者のアンケート結果より~

第3回 海外投資家を引き付ける英文IR コストや時間をかけない自動翻訳の活用~日本語のみの開示で公平・公正・適時という開示の原則に沿っていると言えるか~

第2回 理工系の英語論文執筆における課題とAI自動翻訳ツールの活用

第1回 第17回AAMT長尾賞/第9回AAMT長尾賞学生奨励賞 受賞記念講演

巻頭言

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