AAMTジャーナル「機械翻訳」No. 75 編集後記


編集後記

内山将夫

AAMT編集委員会


本号はAAMT創立30周年記念特集号です。皆様ご存じのように、ここ数年でNMTによる機械翻訳が広く社会で実用されるようになりました。ここで改めて、機械翻訳とはどういうものか、どのように活用していくべきかを皆様と考えていきたいと思っています。 

巻頭言では、高橋聡様より、「『機械翻訳』を訳した翻訳者が考えていること」をご寄稿いただきました。ご提言いただいた 

  • 機械翻訳研究者と翻訳者との協力態勢
  • ソリューションの活用に関するガイドライン
  • 個人翻訳者が機械翻訳を正しく評価できる場

はいずれも重要なものですので、今後、AAMT策定の「MT利用ガイドライン」等で、取り組んでいきたいと思います。 

第16回AAMT長尾賞受賞者のTeam Tohoku-AIP-NTT at WMT-2020様からは、複数トラックで事実上の一位を獲得した、WMT-2020ニュース翻訳タスクに参加した機械翻訳システムについてご寄稿いただきました。NMTの高精度化について、大変参考になると思います。同じくAAMT長尾賞受賞のMantra株式会社様からは、「マンガ機械翻訳への招待」をご寄稿いただきました。ご紹介いただいた「Mantra Engine」は、機械翻訳を含むマンガ翻訳に係るあらゆる作業をツール内で完結できるものです。このように、ワークフローにしっかりと組み込まれた機械翻訳エンジンは、マンガ以外への機械翻訳の利用にも大きな示唆となると思います。 

第8回AAMT長尾賞学生奨励賞は、AAMT長尾賞とのダブル受賞の石渡祥之佑様から、「Translation and Description Methods for Multilingual Text Understanding」をご寄稿いただきました。ご提案の「未知フレーズに対する説明文」の生成は、新規性が高く、今後の発展性も期待できると思いました。 

また、AAMT創立30周年を記念して、過去のAAMT長尾賞受賞者のなかから、凸版印刷株式会社様、株式会社バオバブ様、八楽株式会社様、株式会社みらい翻訳様に現在のご様子をご寄稿いただきました。いずれの方々も益々ご活躍されていることがお分かりかと思います。 

現在AAMTでは「MT利用ガイドライン」を策定中ですが、山田優様には、「MT利用ガイドラインの必要性」をご寄稿いただきました。MTは、現在、広く社会的に使われていますが、それに伴う各種の問題も顕在化している状況ですので、MT利用のガイドラインは正に必要です。本ガイドラインは2022年5月末の完成を目指しています。 

影浦峡様には、「人間の翻訳と機械の翻訳(5):翻訳者のコンピテンスとは何か」をご寄稿いただきました。学生(翻訳授業の履修経験有)とプロの翻訳者を対象とした、翻訳作業時の情報探索(調査)行動の量的・質的な分析の紹介など、MTの研究者にも示唆がある内容と思いました。 

石岡英子様には、「【JTF40周年特別企画】2021年度第1回JTF関西セミナー:機械翻訳とは何か? どこから来て、どこへいくのか?」のイベント報告をご寄稿いただきました。本号にもご寄稿いただいている高橋様と中澤様によるご講演・パネルディスカッションが大変興味深いです。 

出内将夫様には、「AAMT招待講演『語学教育とMT』機械翻訳の問題~第二言語教育の立場から~」のイベント報告をご寄稿いただきました。本講演では、トム・ガリー様から、「MTと言語教育の問題」をご紹介していただいています。MTの精度がどんどん良くなっていく現状で、言語教育とMTとの関係について、大変参考になりました。 

中澤敏明様には「第8回アジア翻訳ワークショップ(WAT2021)開催報告」をご寄稿いただきました。WAT2021では18の言語を対象とした14のshared taskが行われ、世界中から26のチームが参加しました。入力文とともに出力文で必ず使わなければならない訳語のリストが与えられる「日英・英日制限翻訳タスク」では、「人間の翻訳に匹敵するような精度」が達成されています。 

AAMT創立30周年の今年は、機械翻訳がこれから大いに使われていく初動の年になると思います。今後、10年・20年先に、機械翻訳がどのように世の中に広まるかが楽しみです。

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