AAMT長尾賞について
一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)の初代会長の長尾真先生が日本国際賞を受賞されましたが、同賞の賞金の一部をAAMTの活動に資するようにとAAMTにご寄付くださいました。これを受けて、AAMTでは、AAMT長尾賞を設けることと致しました。
賞の趣旨
機械翻訳システムの実用化の促進および実用化のための研究開発に貢献した個人あるいはグループを表彰します。
いわゆる学会の論文賞や発表賞といった学術賞ではなく、たとえば、高性能の機械翻訳システムを商品化した、機械翻訳システムを使った新しいサービスを開始した、といった貢献を対象とします。もちろん学術的にも意味のある成果を除外するものではありません。
第19回(2024年)受賞者
受賞者
LLM-jp
受賞理由
LLM-jpによるオープンかつ日本語に強い大規模言語モデルの研究開発
国産の大規模言語モデル(LLM)に関する研究開発団体であるLLM-jpは、国立情報学研究所所長の黒橋禎夫氏の呼びかけのもと、オープンかつ日本語に強い大規模言語モデルを構築し、LLMの原理解明に取り組むことを目的として発足した。LLM構築時のデータ・技術資料の公開のみならず、モデル・ツールを無償で公開することで、日本国内における大規模言語モデル研究開発は、加速度的な進化を遂げている。本団体の活動は機械翻訳に限定されるものではないが、今後の機械翻訳の研究開発・普及にも大きく影響を与える多大な貢献であり、AAMT長尾賞の受賞にふさわしい。
長尾賞受賞者 LLM-jp |
第18回(2023年)受賞者
受賞者
中外製薬株式会社 信頼性保証企画部 翻訳マネジメントグループ・
株式会社アスカコーポレーション
受賞理由
医薬品開発業務を迅速化するための機械翻訳の協調的開発と運用
医薬品開発業務のプロセスに機械翻訳(MT)技術を導入し翻訳業務の迅速化を達成した事例であり、その成功は、現場保有の翻訳メモリの学習によるシステムの分野適応、および品質水準の事前定義によるポストエディット基準の作成など、MT企業とユーザー企業による協調的な開発と運用により支えられている。現場導入の効果については、定量的に報告されており、今後の翻訳システム導入に大いに参考となる。比較的事例の多い不特定多数を対象とするMTを用いた新規サービスの展開ではなく、既存の業務に個別化されたMTを導入した先進的事例であり、MT企業とユーザー企業の協調的な取り組みによる成功事例として、産業界での実用促進への貢献が大きく、AAMT長尾賞の受賞にふさわしい。
長尾賞受賞者 中外製薬株式会社 信頼性保証企画部 翻訳マネジメントグループ・株式会社アスカコーポレーション |
第17回(2022年)受賞者
受賞者
NHK日英機械翻訳開発プロジェクト
受賞理由
英語ニュース制作時間短縮に向けた支援ツールとしての機械翻訳システムの開発
NHKでは、外国人向けに多くの英語ニュース・番組を発信しているが、日本語の原稿・台本を人手で翻訳して制作してきたため、発信までに時間がかかることが課題であった。制作時間を短縮するため、2017年頃から「日英機械翻訳システム」を開発しており、ニュース制作の現場において利用され、作業の短縮化、効率化を実現し、英語ニュースを迅速に視聴者に届けることを実現した。高品質なニュース翻訳を実現するために、人手翻訳による100万文対規模の日英ニュース対訳コーパスを開発し、さらに、日付表現処理や、用語翻訳、様々な対訳データから学習するための手法、文脈を考慮した機械翻訳モデルの研究・開発を行っており、高精度ニュース機械翻訳の実現に導いている。特に100万文対規模の対訳コーパスの開発は他には真似のできないものであり非常に高く評価できる。ニュースという公共性が非常に高い分野での先進的かつユニバーサルな取り組みであり、まさにAAMT長尾賞にふさわしい。
受賞者のみなさま
(2021年度は、COVID-19感染症の影響で授賞式を中止しました。写真をクリックすると拡大されます。)
長尾賞受賞者 NHK日英機械翻訳開発プロジェクト |
第16回(2021年)受賞者
受賞者1
Team Tohoku-AIP-NTT at WMT-2020 (メンバー:清野 舜, 伊藤 拓海, 今野 颯人, 森下 睦, 鈴木 潤)
受賞理由
機械翻訳の分野で権威の高い国際会議WMT2020のニュース記事翻訳タスクにお いて、参加した4言語対トラック(英独、独英、日英、英日)の人手評価において全て(同率を含む)一位を獲得し、英独および独英のトラックでは自動評価でも一位を獲得した。さらに、言語学者による言語現象別の翻訳品質評価においても他のシステムを大幅に上回る最良の評価を得るなど、非常に高品質な機械翻訳システムを実現し、国際的に高く評価されている。これらの成果は、機械翻訳システムの実用化に向けた日本の研究開発力の国際的プレゼンス向上に大きく貢献し、また得られた多くの知見を研究開発者に共有する活動を通じて機械翻訳システムの開発と実用化の促進にも大きく貢献している。大学、研究機関、企業の産官学連携による優れた成果であり、まさにAAMT長尾賞にふさわし い。
受賞者2
Mantra株式会社
受賞理由
グローバル社会における異文化理解促進でも貢献の高い「漫画」の翻訳という 今までに無い新しい機械翻訳のテーマに挑戦し、機械翻訳の最新トピックであるマルチモーダル翻訳と文脈翻訳、さらに画像認識技術を融合して、実用的な漫画翻訳エンジン及び翻訳校正システムの事業化に挑戦している。これらの技術は、日本で出版されている漫画の海外展開、海賊版防止の観点から非常に高く期待されており、2020年の創業以降、当該システムは国内外の出版社や翻訳会社、漫画配信事業会社に導入され、多くの漫画の海外展開に寄与している。また、漫画翻訳エンジン開発の過程で研究を重ねた要素技術を転用し、国内出版社と共同で「漫画で外国語学習サービス」を展開するなど、教育面にも新風を起こそうとしている。学術的にも萌芽的な段階にあるマルチモーダル・文脈翻訳を漫画翻訳という形で事業化すると共に、研究成果及びデータセットを学会で広く公表するなど機械翻訳の研究にも積極的に貢献しており、まさにAAMT長尾賞にふさわしい。
受賞者のみなさま
(2021年度は、COVID-19感染症の影響で授賞式を中止しました。写真をクリックすると拡大されます。)
長尾賞受賞者1 Team Tohoku-AIP-NTT at WMT-2020 | 長尾賞受賞者2 Mantra株式会社 |
第15回(2020年)受賞者
受賞者1
コニカミノルタ株式会社 BIC Japan
受賞理由
コニカミノルタ株式会社は医療現場の言葉の壁の解消のために、人間の通訳と機械の通訳を併用したタブレットの医療用音声翻訳アプリ「MELON」を2016年に開発し、それぞれの利点を生かした複合的なサービスを病院向けに事業化した。また、逆翻訳機能やログデータの可視化サービスなどの付加価値を提供し、病院の外国人患者受け入れに貢献している。医療現場をヒアリングし医療現場のニーズに沿った工夫があることが評価されて、500床以上の救急病院(例 筑波大学附属病院、東京医科歯科大学医学部附属病院、慶應義塾大学病院、東京慈恵会医科大学附属病院)や厚労省管轄の検疫所などに広く普及している。機械翻訳システムの実用化の促進および開発に貢献したという点でまさに長尾賞にふさわしい。
受賞者2
東芝デジタルソリューションズ株式会社
受賞理由
東芝デジタルソリューションズ株式会社の開発した特許庁の審査業務のための日英機械翻訳システムが2019年5月に稼働開始となり、2020年5月には中国特許公報および韓国特許公報にも対応するようになった。NMTエンジンを核に特徴の異なる複数のエンジンと同社の自然言語処理技術と最新のクラウド技術を組み合わせることで、多様な特許関連文書に対する、高精度かつ高速な応答を可能とする機械翻訳を実現した。近年性能向上の著しいNMTだけでなく、文書の部分によっては、より適切に翻訳できるRBMTとSMTを使うなど技術的な工夫にも優れている。特許戦略のグローバル化に伴い、特許文献を翻訳する頻度・件数は急増しており、経済的インパクトの大きな特許分野での独自方式の機械翻訳システムの実用化はまさに長尾賞にふさわしい業績と言える。
受賞者のみなさま
(2020年度は、COVID-19感染症の影響で授賞式を中止しました。写真をクリックすると拡大されます。)
長尾賞受賞者1 コニカミノルタ株式会社 BIC Japan | 長尾賞受賞者2 東芝デジタルソリューションズ株式会社 |
第14回(2019年)受賞者
受賞者
ソースネクスト株式会社
受賞理由
ソースネクスト株式会社は携帯型音声翻訳端末であるポケトークを開発、販売し、機械翻訳技術の普及に大きく貢献した。本端末は翻訳精度のみならず端末のデザインも注意深く設計されており、幅広い年齢層に対して使いやすいUIを提供している。そのため、これまで機械翻訳に触れたことのない人にまで機械翻訳を利用する機会を提供したことは特筆に値する。さらに、コンシューマ向け販売後のフィードバックからの月2回のアップデートを実施。ハード、ソフトの実装のトライ・アンド・エラーで素早く改良していく姿勢で、2018年9月に発売された通訳機「ポケトークW」は短期間に20万台の売り上げを達成した。利用者、適用領域を増やしながら、雨後の筍のように製品の生まれている音声翻訳専用機市場で市場の97%を支配するという快挙を成し遂げた。また本端末は駅・空港・タクシー・観光地など様々なシーンでの導入が進んでおり、増え続けるインバウンド需要への対策としての役割も大きい。機械翻訳というものの認知度とコンシューマーへの受容性を高めたことは長尾賞にふさわしい。
受賞講演の様子 | 長尾先生と共に |
第13回(2018年)受賞者
受賞者1
凸版印刷株式会社情報コミュニケーション事業本部
ソーシャルイノベーションセンター情報インフラ本部コンテンツ企画部
受賞理由
企業連携により多様な自動翻訳の事業化を進め、商業接客音声翻訳サービスを現場店舗に大規模に展開している実績、さらに日本郵便向け音声翻訳システムを全国2万の郵便局に設置している実績、そして自治体音声翻訳の常設を目指した取り組みが高く評価できる。このような社会にインパクトを与える多様な事業展開は機械翻訳システムの実用化促進という点で長尾賞の趣旨に合致するものであり、長尾賞の受賞にふさわしい。
受賞者2
日中・中日機械翻訳実用化プロジェクト(京都大学・黒橋禎夫、科学技術振興機構・中澤敏明)
受賞理由
科学技術論文翻訳ためにコーパス・辞書の開発構築を進め、大規模日英中専門用語辞書を公開するとともに、最先端の機械翻訳技術であるニューラル機械翻訳をいちはやく独自に開発し、国際ワークショップ開催を通してその有効性を広く知らしめた功績は顕著である。その成果を一般に公開し、日中間の科学技術交流の促進に供していることから、機械翻訳システムを使った新しい社会サービス実現という点で長尾賞の趣旨に合致するものであり、長尾賞の受賞にふさわしい。
授賞式の様子
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長尾賞受賞者1 凸版印刷グループ | 長尾賞受賞者2 JST・京都大学グループ |
第12回(2017年)受賞者
受賞者
八楽(やらく)株式会社
受賞理由
機械翻訳オンラインCATツール「ヤラクゼン」を開発し、翻訳の専業者でない一般の企業人が英文メールや社内ドキュメント、各種マニュアルなどを扱う際に有用となるツールを提供した。大企業を含む100社以上に数万人に上る利用者登録があり、同ツール提供による機械翻訳サービスの利用実績はビジネスでの有用性を示すものであり、機械翻訳の実用化を更に発展させる点で長尾賞にふさわしい。
授賞式の様子
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授賞式の様子 | 長尾賞受賞者講演 (湊 幹さん) |
第11回(2016年)受賞者
受賞者
株式会社みらい翻訳
受賞理由
機械翻訳の基本技術となっているRBMTやSMTなどを統合して、翻訳精度や速度に見合った自動翻訳サービスを提供する初めての機械翻訳プラットフォームを開発して、B2Bビジネスを実現した点が長尾賞にふさわしい。SNS向けの自動翻訳市場への今後の展開も大いに期待できることを補足する。
授賞式の様子
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第10回(2015年)受賞者
受賞者
株式会社ATR-Trek 業務用途音声翻訳システム開発プロジェクト
パウル・ミヒャエル、鈴木昌広、袋谷丈夫
受賞理由
世界に展開しているグローバル企業において、複数言語の社内用語の扱いや機密保持の仕組みを解決して、そこに音声翻訳技術を活用して、異言語間コミュニケーションを工場内で実現するという実績が高く評価できるということで、産業応用に向けたB-to-Bのための新たな音声翻訳モデルを具体化した功績が顕著である。
授賞式の様子
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第9回(2014年)受賞者
受賞者
(独)情報通信研究機構 ユニバーサルコミュニケーション研究所多言語翻訳研究室
内山将夫、隅田英一郎
受賞理由
語順変換と訳語選択との独立実行による統計翻訳技術の研究実用化ならびに複数企業への技術移転による高性能機械翻訳システムのサービス実現による功績が顕著なためである。これは、長尾賞の設立趣旨である、「高性能の機械翻訳システムを商品化した」,あるいは「機械翻訳システムを使った新しいサービスを開始した」という観点を鑑み,長尾賞にふさわしいと認めるものである。
授賞式の様子
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第8回(2013年)受賞者
受賞者
株式会社バオバブ代表取締役社長 相良美織
受賞理由
対訳コーパスを使う翻訳支援技術の下、「クラウドソーシング翻訳」のためのプラットフォームを構築し、その上に外国人留学生を中心とした翻訳コミュニティを形成し、廉価な人手翻訳を提供するビジネスを立ち上げ、ネット通販会社、IT関連会社、大学などで利用実績を上げていることが認められることから、機械翻訳技術を活かしたインターネット時代の新たなMTビジネスを切り開いた点で長尾賞にふさわしい 。
授賞式の様子
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第7回(2012年)受賞者
受賞者
株式会社富士通研究所 機械翻訳システム研究開発グループ
受賞理由
コーパスベースの言語資源構築技術の研究と開発、および機械翻訳システムの実用化技術に関する研究と開発における長年にわたる実績が高く評価できる。
授賞式の様子
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第6回(2011年)受賞者
受賞者
AAMT 共有化・標準化ワーキンググループ
受賞理由
翻訳支援のためのシンプルでオープンな辞書仕様UTXを開発、公開し、機械翻訳精度の向上ばかりでなく、辞書のinteroperabilityおよび翻訳支援へも有効な手段を広く提供している。今後、ローカライゼーション、オープンソース、教育、行政、医療、法律などのさまざまな分野で活用が期待されるとともに、国際標準となる素地を備えている点で高く評価できる。
授賞式の様子
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第5回(2010年)受賞者
受賞者
「みんなの翻訳」構築・運用グループ
受賞理由
「みんなの翻訳」の利用者コミュニティを立ち上げ、翻訳家の無報酬の翻訳活動を支援し、対訳コーパスの蓄積に大きく寄与すると共に、利用者の機械翻訳の理解と普及に貢献した功績が顕著なため。
授賞式の様子
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第4回(2009年)受賞者
受賞者(1)
東芝ソリューション株式会社 および 株式会社東芝
受賞理由
ユーザー辞書の自動抽出から辞書の自動選択までの優れた技術開発により機械翻訳の実用度を大きく押し上げる功績が顕著なため。
受賞者(2)
AAMT インターネットワーキンググループ
受賞理由
AAMT会員ならびに機械翻訳ユーザに最新の機械翻訳システム/サービス一覧を長年にわたり提供し続け、機械翻訳ソフト/サービスの普及に努め、機械翻訳の発展/啓蒙に寄与した功績が顕著なため。
授賞式の様子
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第3回(2008年)受賞者
受賞者(1)
シャープ株式会社 情報通信事業本部 要素技術開発センター 機械翻訳チーム
受賞理由
翻訳メモリとハイブリッド翻訳方式を中核としたテキスト翻訳ならびに音声翻訳システムなどの各種形態の機械翻訳技術の実用化
受賞者(2)
日本電気株式会社 および 株式会社高電社
受賞理由
携帯電話向け多言語自動翻訳サービスの事業化
授賞式の様子
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第2回(2007年)受賞者
受賞者
株式会社国際電気通信基礎技術研究所 音声言語コミュニケーション研究所
受賞理由
統計と用例とに基づくコーパスベース翻訳技術の研究・開発ならびに携帯電話を用いた多言語音声翻訳サービスの事業化
授賞式の様子
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第1回(2006年)受賞者
受賞者(1)
沖電気工業株式会社 研究開発本部 機械翻訳研究グループ
受賞理由
エポックメイキングとなる機械翻訳システムやサービスの開発運用
受賞者(2)
日本電気株式会社 NECメディア情報研究所
受賞理由
携帯端末用自動通訳システムの実用化技術に関する研究・開発
授賞式の様子
(写真をクリックすると拡大されます)
(2024年10月9日現在)